研究概要
はじめに
地球惑星物性学分野では、地球や惑星を構成する物質の構造・物性を実験的に調べることにより、それを用いて地球や惑星の内部を明らかにする研究をしています。この分野のカバーする領域は、いわゆる実験岩石学と 鉱物物理学と呼ばれている分野です。特徴は鉱物や岩石のミクロな性質を実験に基づいて解明すること、またその結果をマクロな対象である地球・惑星の現象に適用することです。私たちはこの実験室で得られた成果をもとに、地表から観察できることだけでなく、地球や惑星の見えない内部構造や、何十億年に及ぶ形成史を総合的に理解することを特に重要なことであると考えています。
学部3年生の方へ:配属後の研究テーマ
・基本的に我々は高温・高圧実験を中心とした研究を行っていますので、実験主体となります。
・自分はこれまでにないテーマをやってみたいという興味・アイデア・希望がある人には、それが実現できるように考慮します。
・また、新しい実験手法が必要な場合には装置の開発も一緒に行います。
分野内での興味ある研究対象、この分野の研究の方向について整理すると以下のようになります。
地球内部での水の循環の研究-高圧含水相の研究
水は下部マントルや核に運び込まれるのだろうか?
流体とマグマの反応・流体と金属鉄の反応、H2O 流体は鉄と反応して水素化鉄・酸化鉄になり、これは核形成の重要なプロセスになっている可能性があります。
また最近、核の冷却に伴って、H2O などの軽い物質がマントルに供給されている可能性が指摘されています。
NASA提供
地球内部の鉱物の相変化のカイネティクスと地球内部の流動と対流の研究
相変化はどれぐらいの速さで進行していくのか?
マントル対流はどのようなメカニズムで動いているのか?
スラブのような低温領域で起こっている反応は周囲のマントルとどう違うのか?
こういった問題は、地球内部の輸送現象や不均質構造を理解するだけでなく、深発地震の原因にも関係しており、今後の重要な研究課題の一つと考えられます。
NASA提供
マントル遷移層から核に至る鉱物の相変化・元素分配の研究
下部マントルを構成している鉱物の構造や組成に関しては、実はまだよくわかっていません。特に深くなるに従って情報は曖昧で、核に関する実験的研究は更に不十分です。
特に地球内部で最大の境界である下部マントルと核の境界領域(D" 層)には低速度層が観測されています。
溶けたマグマがあるのだろうか?
軽元素が関係しているのだろうか?
核の内部を探る研究は今後の興味が尽きないテーマの一つです
NASA提供
惑星内部構造と隕石母天体の問題の解明
現在探査機からの様々なデータが蓄積されており、惑星や衛星の内部構造にもいくつかの制約条件がわかってきました。
しかし月や火星の核やマントルに関してもまだ良くわかっていません。
隕石の起源は太陽系形成の残骸なのか?
惑星の一部が飛び出した物質か?
これらの謎を解いてみませんか?
将来的には木星内部の研究も可能かも知れません。
初期地球と地球内部構造進化の研究
地球はそもそもどうやってできたのだろう?
形成期の地球には現在と違って、マグマオーシャンの存在(結晶分化)、核の形成過程(親鉄元素分配)など、特別な事件があったと考えられています。
地球の 46 億年にわたる形成過程を実験的に再現してみませんか?
研究に用いる装置・手法
マルチアンビル型高圧装置
(3000tonプレス、1000tonプレス、700tonプレス、1500tonプレス)
日本で生まれ日本で育った世界に誇れる高温高圧実験装置です。温度や圧力などの精密な制御が可能な事と比較的大きな試料を扱える特長を生かして、様々な分析が可能です。最近は圧力発生部にダイヤモンド焼結体を用いることにより、下部マントルの上部付近までの実験が可能となっています。
ダイヤモンドアンビル型高圧発生装置(レーザー加熱型 DAC、外熱式 DAC)
この装置では地球の中心に達する条件が発生でき、さらにNd:YAG レーザーによって 数千度の加熱実験も可能となっています。また、高温高圧力下にある試料の状態が 直接肉眼で観察できる事も大きな特徴です。世界最高の圧力条件に挑戦したい人は居ませんか。仙台から超高圧力実験の世界記録を出したいものです。
強力 X 線によるその場観察実験(PF, SPring-8)
この実験は、筑波にある放射光実験施設 (PF) や、西播磨にある高輝度光科学研究センター(SPring-8) を使います。高温高圧装置の内部で起こっている反応を、X 線を使うことによって直接見る(その場観察)実験を行っています。
分子動力学(MD)法によるシミュレーション
この方法は高温高圧実験と相補的なもので、計算機実験と呼ばれます。実際の実験では実現できない極端条件での物質の研究や、高温高圧実験の結果をさらなる高温高圧の条件に外挿するのに用います。この方法では、(a) 鉱物の状態方程式の研究 (b) マグマの高温高圧下の密度・構造・粘性の研究 (c) 高温高圧流体の研究 などが挙げられます。
レーザーラマン分光装置
(JASCO NRS-2000)
物質に対してレーザー光を照射し、非弾性散乱による光(ラマン散乱光)を測定します。ラマン散乱光の波数(ラマンシフト)は、その物質の構成を構成する原子の結合状態に依存します。この特徴を利用して、高圧相の相同定やルビー蛍光法による圧力測定をします。
赤外分光測定装置
(フーリエ変換型顕微赤外分光高度計)
試料に赤外光を照射し、透過や反射光を分光してスペクトルを得ることで試料の構造や状態を知る装置です。
本研究室では主に、試料の赤外吸収スペクトルを得ることで鉱物中の水の量(含水量)を測定するのに用いています。
電気炉
高温・高圧実験の出発物質を合成するために使用します。
走査型電子顕微鏡
(JEOL JSM-5410: 共同利用装置)
試料表面を電子線で走査し、二次電子線で試料の形を観察したり、後方散乱電子線で試料内の組成の違いを観察したりします。また、顕微鏡に取り付けられたエネルギー分散型検出器(EDS)を用いて試料の化学組成を定量分析できます。
走査型電子顕微鏡
(Hitachi S-3400N: 共同利用装置)
試料表面を電子線で走査し、二次電子線で試料の形を観察したり、後方散乱電子線で試料内の組成の違いを観察したりします。低真空での後方散乱電子像も観察できるので、蒸着膜無しで試料が観察できます。顕微鏡に取り付けられたエネルギー分散型検出器(EDS)を用いて試料の化学組成を定量分析できます。後方散乱電子回折を利用して結晶方位を調べたり、カソードルミネッセンスで結晶欠陥や不純物を調べたりできます。
波長分散型電子プローブマイクロアナライザ
(JEOL JXA-8800M: 共同利用装置)
試料表面を電子線で走査し、二次電子線で試料の形を観察したり、後方散乱電子線で試料内の組成の違いを観察したりします。この顕微鏡には波長分散型検出装置が取り付けられており、EDSよりも高い精度で試料の化学組成分析が行えます。
微小部X線回折装置
(MAC Science M18XHF-SRA)
微量試料のX線回折パターンを取得することができます。マルチアンビルやダイヤモンドアンビルの高温・高圧実験から回収された微小試料の相同定に使用します。
RFスパッタ装置(SANYU SVC-700RF1)
高周波(RF)電源を用いて金属や化合物をスパッタリングして、サンプル上に成膜を形成する装置です。
アルゴンイオンミリング装置
(FISCHIONE MODEL 1010)
TEM観察を行うために試料を薄膜化(10nm以下)する装置です。液体窒素による試料の冷却が可能で、アルゴンによる試料へのダメージを軽減できます。
集束イオンビーム加工装置
(JEOL JEM-9320FIB)
試料の微細加工を行う装置です。試料中の数マイクロメートルの特定領域をTEM観察用の薄膜に加工したり、ダイヤモンドアンビルセル実験装置や出発物質の準備に使用したりしています。
マニピュレータ付き光学顕微鏡
集束イオンビーム加工装置で加工した薄膜試料の移動やダイヤモンドアンビルセル実験装置の組み立てに使用します。
炭素蒸着装置 (Meiwafosis CADE-E)
試料に炭素膜を蒸着する装置です。電子顕微鏡観察の前処理に利用します。
4年生、修士課程、博士課程での生活
この制度は修士2年から応募でき、博士1年から給与をもらうことが可能です。特別研究員に採用されるためには、研究分野間の厳しい競争があります。
このような、地球科学分野の競争の中で、私たちの分野の鎌谷紀子さん(H4 博士卒・気象庁)、森島秀明さん(H5 博士卒・東芝材料デバイス研究所)、鈴木昭夫さん(助手)、久保友明さん(助手)など、先輩の多くが博士課程に在学中に特別研究員に採用されています。
もし博士課程まで進学し、鉱物物理学や実験岩石学の研究を目指したい人は、私達の分野で研究することを勧めます。
大学院での研究に積極的に取り組み、興味深い結果が得られた場合には、積極的に国際学会での講演(アメリカ地球物理学連合(AGU)など)を勧めています。
その他にも、同様な研究を行っているアメリカのミネソタ大学、ニューヨーク州立大学、ドイツのバイロイト大学のバイエルン地球科学研究所とも研究協力関係にありますので、大学院在学中にこれらの機関に滞在し、そこでの研究者の指導を受けることも可能です。